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伝統菓子・地方菓子- Traditional confectionery -

シェフの思い出の菓子

金子 哲也(レピキュリアン)2015年07月30日

マカロン・パリジャン Macarons parisiens

今でこそマカロンは人気商品ですし、つくっているパティスリーも多くなりましたが、私がパティシエの世界に入った頃は、まだまだ手がけるところは少なかったですね。私も「ルコント」に入って初めて見ました。見たこともなかったんですから、先輩たちが“とにかくむずかしい”と言うつくり方などは、さらに未知の世界です。当時「ルコント」では6色展開だったと思いますが、一見シンプルなこのお菓子は、私にとって実にミステリアスな存在でした。
“なんでマカロンっていうんだろう?” “いつから食べられているもの?” “これ以外にも種類がある?”。ごく自然な興味から、そうした数々の疑問を自分でひとつひとつ調べ始めました。それまでは単につくったり、味見をしたりするにとどまっていたお菓子を、“その歴史や背景を知る”というステージへ一歩進めてくれたのが、私にとってはマカロンだったんですね。

フランス修行時代には、生地にイタリアン・メレンゲを使うなど、それまで見たことのない製法にも出会い、同じマカロン・パリジャンでも食感や焼き上がりの表情は千差万別であることを実感しました。お菓子の伝統を調べるについても、情報の量が日本とは比べ物になりませんでしたから、ますますのめりこんでいきました。古書店主と顔なじみになって、“今はこういうものを探しているから、入ったら教えて”なんて便宜を図ってもらったりね。
そうして何かひとつのことを探っていると、脇に思わぬ発見がいくつもあったり、逆に新たな謎が生まれたり。今でもそんなことはしょっちゅうですよ。たとえば昔の本を読んでいると、“パイナップルにノワゼット”なんて組合せが出てきます。そのままだと、ちょっと意外なコンビなんですが、そこにパイナップルともノワゼットとも相性のいい素材を“プラス・ワン”し、食感とか表現方法をアレンジして、自分風に組み立ててみる。すると古い組合せが新しいお菓子として、息を吹き返したりするんです。おもしろいですね。古典はいつも課題の山ですよ。

マカロンに関しても、そうやって調べたり実際に食べたりしながら、自分の理想とする味わいや食感を忠実に追い求めて、今のスタイルにたどり着きました。試行錯誤は苦しいですが、結局はおいしいお菓子を願い、当たり前の手順に従ってつくる、それを重ねていく中に道は開けたりするものです。またそういう確かな手仕事を通して、パティシエとしての感性が育っていくのではないかと、私は思うのです。